優秀賞受賞作品⑩
 言葉を変えて
                         沙や子 新な
 私は、悪口を言われた回数は数えきれない程ある。中学三年間、いじめに遭い、直接言われた事も。「あの子、こう言ってたよ」と人伝てで聞く事もあった。
本当に、数えきれない悪口を言われた。
この時の私は、内気で打たれ弱く、言われたらスコップで心臓の一部をえぐられたかのように傷ついた。怖くて言い返せなかった。
でも、今思えばこれは大正解。
大間違いだったのは、自分も悪口を言った事。あの子が言ってたんだから、私も言っていいでしょ?そうかもしれない。
思うのは自由です。でも言わない方がいい。
 中学時代の私は「性格悪いよねー」と仮に言われたら「性格悪いのはあんたでしょ」と直接本人に言える勇気はなかったので、違う友達に聞いてもらっていた。その時の私からしたら、言ってない事になっていた。
けど、次の日に「あんた、悪口言ってたでしょ?」とバレている。嘘も上手くない私は、
「言ってないし」としか言えなかった。
やっぱりバレている。
それは、聞いてた友達にチクられたんじゃない?と思うかもしれない。そうかもしれない。でもそれ以上に、私は言霊のせいだと思っている。
その人に向けられた悪口は、必ず本人に届き自分に返ってくる。それがどんな形で、どのように、いつ返ってくるかは分からない。絶対に。確実に。間違いなく。自分に返ってくる。
 例えば、自分の誕生日にマグカップとハンカチのセットで誕生日プレゼントを貰ったとする。あなたは、貰ったプレゼントの金額は気にならないタイプ?私は、気になって調べるタイプ。それは、どれぐらいのお金を私にかけてくれたの?  って気になり方ではなく、同じぐらいの金額で返してあげたいという気持ちで気になる。そして、いざその子が誕生日の時は、同じぐらいの金額か、それ以上に可愛いギフトBOXに入れてあげたくなり、貰った金額より上回るかもしれない。
言葉もこれと一緒だと私は思っている。
悪い言葉も、良い言葉も少しおまけがついて返ってくると思う。
これに気づくのに25年もかかってしまった。
それまでは、友達の悪口、親の悪口、テレビに映ってる人の悪口を好き放題言っていた。
口が悪ければ悪いほど、面白いと思われるとさえ思ってる時もあった。
なぁんにも面白くない。なんならダサイ。
言えば言うほど、自分に返ってくる。
言葉と態度は連動してて、人間関係も上手くいかない。
悪い言葉、傷つく言葉。頭で分かってるのにあえて言っていた時もあった。
「最近、肌汚くない?」
絶対に言う必要がない。ダメなのに。
この時の、親友の傷ついた顔がこびりついて消えない。言ってしまったから、悪いと分かってるから。10年以上、経った今でも、あの時の私、本当っに最低だなと後悔し、自分で自分を傷つけている。
言わなければ良かった、後悔する言葉。
山のようにある。
今、これを書いていて、なぜか涙が止まらない。後悔、先に立たずとはこの事だ。
傷つけなくてもいい人を傷つけていた事実。
本当の罪悪感は、忘れる事はない。寝て、忘れられるようなものは、罪悪感ではない。
本物は、どっしりと重くのしかかり、もう体制も変える事も出来ないから、辛い体制のまま苦しむしかない。そんな感じだ。
これを読んでくれている、あなたは大丈夫か私は心配している。
 テレビに出てる、直接関わる事すら出来ない人の事でさえ、あなたは悪く言ってないだろうか?わざわざ言葉にし、本人に悪意を持って届けている人がいる。言葉の重みをちゃんと知らないから、そんな事ができるのだ。ネットは怖い。その指を使い、タッチをするだけで心臓を止めてしまう事があるのを忘れてはいけない。
誹謗中傷で亡くなってしまった方は、言葉の重みを知っていた。知っていたから、受け止めてしまった。忘れないで。言葉は重い。
 親の悪口、言いたくなる! 分かる!
毎日、一緒にいてたら腹が立つ事あって、当たり前。
「宿題したの? テスト大丈夫なの? ユーチューブばっかり見ないの。早く起きて。遅刻するよ。ご飯、食べてる時ぐらい携帯見るのやめなさい」
うざいね。分かる。覚えてるよ。この時の、親のうざさ。分かってるよ! という気持ち。
でも、もう一度「宿題」のとこから、ゆっくりと優しい口調で言ってみて。
何も間違えた事、言ってない。あなたを思って言ってくれてる。
 友達の悪口ね。言いたいね。なんなら盛り上がる時もある。本当にやばい子いるしね。私の時は、言ってもない事を、更に大げさにし、人間関係をもみくちゃにする子がいた。  その標的は、大体私だったから腹立ってまた言っちゃってた。でも、この子でさえ思う。悪口、言わなきゃ良かったなって。
一つは、この悪口を聞いてくれてた唯一の友達が友達じゃなくなったよ。10年経った今、何をしてるかサッパリ分からない。
二つ目は、人間関係をもみくちゃにしてた子と、実は仲良かった時があった。楽しかった思い出もあって。腹が立ったけど、あの時許せたなら。悪口を言わなかったら。今は、仲良く笑い話に出来て、新しい思い出が作れたかもしれない。
三つ目は、忘れられない事。
言われた事も、言った事も忘れられない。
これが一番でかいと思う。
忘れられないって辛い。
 中学時代、いじめに遭ってたのもあるかもしれないが、私も数えきれない悪口を言い、罪をばら撒いていた。
確かに。無視されたり、物を壊されたり、結構ないじめだったと思う。けど、もし、もう少し。悪口を言わずにいられたならと思う。
あの時、悪口を言い過ぎた結果。
中学時代の友達がたった一人しかいない。
 テレビで聞いた事がある。人間は、悪い記憶が残らず、良い記憶だけが残るって。
みんな、これは本当の本当の本当だから覚えていてほしい。
中学3年間、悪口を言われ、言った事で、悪い記憶しかなかった私は、中学時代を全然思い出せないのだ。
自信があるのは、好きな人の事。でも、完璧じゃない気がする。ずっと、友達がいなかった訳ではなく、休みの日は遊んだ事もあったはず。なのに思い出は、ふわっと軽くしか思い出せない。
中学3年間を、悪い記憶と私の脳は判断し、思った以上にデータを消したみたいだ。
消えたデータは戻ってこない。
大事な思い出もあったはずなのに。
みんなには、こんな思いをしてほしくない。
「ありがとう」「こちらこそ」と感謝が出来る事。悪いと思ったなら「ごめんなさい」と素直に言えるようにもなれば、人生上手くいく。
実際、私は中学の時に、友達がいなかった人とは信じられないぐらいの友達が出来た。
有難い事に、友達が多すぎて遊びきれない。
仕事では、どこ行っても好かれ頼られる。
お金に困った事もない。
嘘だ! と思う人がいると思う。でもこれが本当なのが不思議なところ。
私はただ、言葉を良い言葉だけを使うようになっただけ。
今、すごく幸せな事を中学の時の私に教えてあげたい。だから、あの頃の私と年の近いみんなに伝えたかった。
 改めて「悪い言葉の卒業」をおすすめしたい。偉そうに言ってる私も、完璧ではない。
でも、もし卒業出来るなら「悪い言葉の課程を卒業したことを証する」と言葉の神様から卒業証書を貰いたい。私が貰えるのは、あと少しかもしれないし、まだまだかもしれない。
みんなはどうだろうか?
 言葉って重く、消えなくて怖い。
でも、正しい使い方が出来ると、言葉一つで幸せになれて、思い出すだけで温かくなる。
良い言葉とは、どんな言葉かは自分で見つけてほしい。
自分が言われて嬉しかった言葉や、尊敬出来る人に隠されていると思う。
全ては、言葉の使い方次第。
みんなの幸せを心から願っている。


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